BGMの上でも声をはっきり聞かせるには、誰かが話している間、音楽を12~15 dB下げます。これをオーディオダッキングと呼び、サイドチェインコンプレッサーが自動で行います。音楽の中音域を少しカットし、最後にラウドネスを確認すればミックスは完成です。
まとめ
要点:
- ノイズの少ない声のトラックと、歌のない音楽から始める。
- 声が鳴っている間、音楽を12~15 dB下げる。
- アタックは速く(約50 ms)、リリースは遅め(約500 ms)にする。
- それでも声が聞き取りにくい場合は、音楽の中音域を2~4 dBカットする。
- ポッドキャストは約-16 LUFS、オンライン動画は約-14 LUFSに仕上げる。
音楽が声をかき消してしまう理由
音楽の上で声が聞き取りにくいとき、声を大きくしても解決することはほとんどありません。原因はマスキングです。同じ周波数帯にある2つの音は競合し、耳は大きいほうを追いかけます。話し声は主に子音が集まる約1~4 kHzの帯域で聞き取られますが、ギター、ピアノ、シンセ、歌声が最も強いのもまさにこの帯域です。
マスキングは聴覚の性質としてよく研究されています。ミネソタ大学のオープン教科書の臨界帯域とマスキングの章 で詳しく説明されています。
声の居場所を作る方法は2つあります。誰かが話している間、音楽のトラック全体を下げる方法(ダッキング)と、声と競合する部分だけを音楽から下げる方法(EQ)です。ポッドキャストや動画のミックスの多くは前者を使い、必要に応じて後者を加えます。
オーディオダッキングとは?
オーディオダッキングとは、ある音が鳴っている間、別の音を自動的に下げることです。ラジオでは、パーソナリティが話し始めると音楽が下がり、話し終えると元に戻ります。これがダッキングです。同じ効果は、ポッドキャスト、YouTube動画、音楽付きのオーディオブック、店舗や駅のアナウンスでも使われています。
これを実現するツールがサイドチェインコンプレッサーです。通常のコンプレッサーは、そのトラック自体が大きくなったときに音を下げます。サイドチェインコンプレッサーは別のトラックを聞いています。声を監視し、音楽を下げるのです。結果を決めるのは次の4つの設定です。
- スレッショルド(しきい値):音楽が下がり始める声の大きさです。通常の話し声では効果がかかり、息継ぎや小さな物音ではかからないように設定します。
- リダクション(深さ):音楽を何デシベル下げるかです。
- アタック:声が始まったとき、音楽が下がる速さです。
- リリース:声が止まったとき、音楽が戻る速さです。
サイドチェインコンプレッションとダッキングは同じ技術です。ダンスミュージックでは、速く深い設定でわざと使い、キックに合わせて曲全体を「うねらせ」ます。話し声ではその逆で、誰にも気づかれないほどなめらかな変化を目指します。
オーディオダッキングのおすすめ設定
次の値は、ほとんどのトーク系コンテンツで出発点になります。耳で確認しながら調整してください。音楽は一歩下がるだけで、消えたように感じさせないのが理想です。
| コンテンツの種類 | 音楽の下げ幅 | アタック | リリース |
|---|---|---|---|
| BGM付きのポッドキャスト | -12~-15 dB | 30~50 ms | 400~600 ms |
| YouTubeの解説動画やVlog | -9~-12 dB | 30~50 ms | 300~500 ms |
| 静かな音楽を使うオーディオブックや瞑想音声 | -15~-18 dB | 50~100 ms | 800~1,000 ms |
| 音楽を目立たせたいイントロ | -6~-9 dB | 50 ms | 500 ms |
リリースが短すぎると、言葉の合間に音楽が跳ね上がり、聞き手には音がうねって聞こえます。リリースが長すぎると、長い間でも音楽が小さいままになります。0.5秒が無難な中間です。
オンラインで声と音楽をミックスする手順
オートダッカーは、声のトラックと音楽のトラックを読み込み、自動ダッキングをかけてミックスします。どちらのファイルもブラウザの外には出ません。
ステップ1: 声を準備する
まず声をきれいにします。オーディオトリマーで言い間違いをカットし、音声の背景ノイズを除去する方法の手順でノイズを減らします。無音部分のノイズは、ダッキングを誤って作動させることがあります。
ステップ2: 2つのトラックを読み込む
オートダッカーを開き、声の録音を声のトラックに、音楽を背景のトラックに選びます。
ステップ3: 声のスレッショルドを設定する
約-30 dBから始め、プレビューを聴きます。小さな言葉で音楽が下がらない場合はスレッショルドを下げ、息継ぎや背景ノイズで下がってしまう場合は上げます。
ステップ4: 音楽の下げ幅を決める
音楽の下げ幅は、ポッドキャストなら約-15 dB、テンポのよい動画なら約-10 dBにします。話している間は、音楽が鳴っているとわかるものの、メロディまでは追えない程度が目安です。文と文の間でまだ音楽が大きすぎる場合は、ツールの「音楽の音量」を6~12 dB下げてください。
ステップ5: アタックとリリースを調整する
アタック50 ms、リリース500 msから始めます。文と文の間で音楽が急に大きくなる場合は、リリースを長くします。
ステップ6: ダウンロードしてラウドネスを確認する
ミックスをWAVファイルとしてダウンロードし、LUFS&ピーク解析ツールで開きます。ポッドキャストは約-16 LUFS、オンライン動画は約-14 LUFS、ピークは-1 dB以下を目安にします。ミックスが小さすぎる、または大きすぎる場合は、サウンドオプティマイザーで調整します。
手動の音量調整と自動ダッキングの違い
サイドチェインコンプレッサーが登場する前、エンジニアは誰かが話すたびに手でフェーダーを下げていました。今でも、編集ソフトで音量の変化を描けば同じことができます。この方法は最も細かく制御でき、劇的な間で音楽を盛り上げたり、短い息継ぎの間は下げたままにしたりできます。自動ダッキングは速く、仕上がりも安定するため、40分のエピソードのような長い録音に向いています。3つの文しかない30秒のCMなら、手作業でも同じくらい早く終わります。
EQで声の居場所を作る
テンポの速い動画のBGMのように、音楽を一定のレベルに保ちたい場合もあります。そのときは、声と競合する帯域だけを下げます。音楽のトラックを3バンドEQで開き、中音(Mid)を2~4 dB下げてください。音楽は低音ときらびやかさを保ったまま、声の居場所だけが空きます。
声のほうは、80~100 Hzのローカットで低いゴロゴロ音を取り除くと、音楽の低音と重なって膨らむのを防げます。大きく持ち上げるのは避けてください。声を上げるより、音楽から削るほうがきれいに仕上がります。各帯域の詳しい説明は、低音・中音・高音のガイドをご覧ください。
声と音楽のミックスでよくある失敗
- 歌入りの音楽を使う。もう1つの声が、あなたの声と直接競合します。インストゥルメンタルのほうが、話し声の下にはずっとミックスしやすくなります。
- ダッキングが深すぎる。音楽がほとんど消えてから急に戻ると、聞き手の気が散ります。他の設定を触る前に、まず深さを浅くしてください。
- リリースが短すぎる。言葉の合間に音楽がうねります。短い間でもレベルが下がったままになるまで、リリースを長くしてください。
- 音数の多い音楽を使う。主旋律が目立つ曲や、中音域の楽器が多い曲は、小さな音量でも声を隠してしまいます。シンプルで一定のBGMが最も適しています。
- ヘッドホンだけで確認する。一度スマートフォンのスピーカーで再生してみてください。そこで声がはっきり聞こえれば、どこでも聞こえます。
どんな音楽を使えますか?
自分で作った音楽、ライセンスを取得した音楽、または利用範囲がライセンスでカバーされているロイヤリティフリーの曲を使ってください。市販の楽曲を声の下に入れて公開するには、通常、権利者の許可が必要です。許可なく音楽を使った動画は、プラットフォームによって消音または削除されることがあります。